暇潰しだとか邪魔にならねぇからだとか。
誤魔化しじみた言い訳は 矛盾を孕んで崩れだす
my wish,your glance and red music
久方ぶりに奴から連絡があった。
たった一行表示された液晶を無感傷に眺め
肌をまさぐる手が止まったことを訝しんだ女が口を開く前に俺は、帰れよ。そう言い上着を女に投げ付けた。
女がしぶしぶ出て行った少しあと、メールの予告時刻と一分も違わずドアを開く音が、鋭く響く。
奴は部屋に入るなり女が残していったであろう甘い匂いに顔を顰めた。(そりゃもう露骨に。こいつは酷く甘味を嫌う)
「ったく、甘臭ぇな。オイ糞、お前んとこの三年の」
「久しぶりじゃねえか、なあ。ヒル魔?」
にこやかに。俺はソファから立ち上がり歩み寄る。
言葉を遮られようものなら、普段の奴なら間違いなくキレるが
不穏を感じ取ったらしい、後ろに下がろうとした。
ああホント、聡い奴だよお前。
でも気付こうが気付かなかろうが大差ねぇよ、俺が相手じゃ。
瞬く暇を与えず左頬を殴りつける。
「あのデブとフケ顔、誰だよ」
少しの間。
奴は一瞬意外だ、という顔をした。
「・・・干渉はナシじゃなかったか」
口の中を切ったらしい。奴の唇が赤く染まるのが見える。血の匂いを纏わせ、
ハ、と奴は軽薄に笑った。
しかし俺を睨み据える眼には強烈な苛怒が爛々と光る。
俺と同じくらい束縛を嫌うやつ。
他人に、自分以外の誰かの思い通りにするのなんざ死んでも願い下げだ、という人種。
対等ではない、けれど、同類。
今目の前にいる、ふてぶてしく狡猾、どこまでも鋭利で暗い部屋の似合う、己しか信じない肉食獣で
利益がなければ人と馴れ合いもしない、いつ相手の喉頚かっ切ってやろうかと思考する、およそ人外のようなお前だと。
それがお前の本質だと。
疑いもしなかった
「俺が何しようがどいつといようが俺の勝手だ糞ドレッド。それはお前も同じだろうが」
よく回る舌で、捲し立てる奴に構わず、俺はその腹に拳をめり込ませた。加減なんてしない。
細い躰は軽く吹っ飛び、なんとか手をついて蹲る。
ゲホッ、ゲホッと、苦しげな音。
あ゛ー内臓いったわなと人事だから思う。
そう、人事だっつうのに、なあ。
コンナニ苛々スンノハナンデ。
ガッと金髪を掴み上げ無理矢理に上を向かせる。
また青白い喉が変な音を出したが、奴は忌々しくもニヤリ、口角を上げた。
俺の血は沸騰し続ける。
街でお前見かけた時にゃ笑えたよ。なんだ、ありゃ。
あんなカス共と、太陽の下でフツーの中学生みてぇによ。
あんな表情知らねぇよ、何、周りのカス共と同じ笑い方してんだよ
んなにそのカス共とつるむのが楽しいかよ
バカじゃねぇの。
あ゛ー、やっぱお前もカスだったのかよヒル魔。
笑えるぜ。
「イキがってんじゃねえよ殺すぞカス」
馬鹿らしい。苛々する。ウゼェ、ウゼェよお前。
カスならカスらしく俺に黙って従ってりゃいいんだよ口答えなんてしてんじゃねえよ
さぁ赦しを乞えよ、ぶっ殺してやるから。
俺を失望させた罰。
俺とお前が同類だなんてフザケた夢、見せた罰。
いたずらに強くその首筋に爪を立て引いてやる。
ピリリとさけて血と肉を巻き込んでそれでもゆっくり引いてやる。
流石に奴は呻いたが、それだけだった。
俺に敵わないことをこいつは最初から知ってる。
頭だけは悪くねえ奴だから。だから抵抗はしない。
しかし決して、屈しもしない。
相変わらず俺を、怒りに満ちた眼で、憐れみと侮蔑で眇めた眼で見るのだ。
何でこんなに苛々すんだ?
お前ごときが、同じ穴の狢でなくただのコマとして俺を見ていやがったって、だけ。
…一番近ぇと思ってたお前が、ホントは他のカス共と同じく遠かったって、だけ。
愛おしむみたいに作ったばかりの、赤い五線譜を撫でる。
そんな仕草はお前にとって屈辱極まりねぇだろう。
抉るように舌を這わせば鉄の味が口中を占める。
所詮カスの血だけどよ、お前が本当にカスに成り下がり切るまでに俺が全部飲み干してやろうか。
鬼だなんだと言われ続けた俺の中でも一番気の違った考えが浮かんできて、喉を鳴らしわらった。
矛盾を孕みガラガラ崩れる
激情は溶けだし本音を隠した
あとに残るのは何だ?
ハハ、始めからなくすものなんてありゃしなかった。
* * * * *
07/2/1
「僕の願い、君の視線に赤い五線譜」
腐った瞳で見なくても充分楽しいですアイシールド!
なのに何を血迷ったか突発阿含×ヒル魔。
客観して王道だと思ったのにモロマイナーでした…。
糖度皆無で超バイオレンスな彼らが好み。CPですら無くていいです。
かわいそうなのはどっち。