ちょきん ちょきんと刃物のこすれる音と ぱらぱらを落ちていく黒を見聞きながら思う

 

例えばそれは 一度、髪を切ると伸ばせなくなる感覚に似ている

 

 

…近くて遠い…

 

 

「ハヤテ!」

遠くから名を呼ばれ、私はそちらを振り向く。
声の主はとうに判っているので、彼が追いつくまで立ち止まっていた。

私と彼がいるのは並木道。紅葉が美しい。
木の葉の里、というだけあって 樹木の多いこの里は今が一番見事に色付く

毎年そんなことを考えるのだが、今年は一段と色が際だって見える。
何故だろう、と小首を傾げたが、すぐに理由を思いついて苦笑した。

 

あなたのまわりに広がるからだ

常より色付いて見えるのは。美しく感じるのは。

 

「久しぶり。髪、切ったんだな」

彼は、その指で私の髪を一ふさ絡め取り弄る。

「よく似合ってる」

髪から伝わる指の動きよりなにより その言葉と笑顔がくすぐったくて、私はすこし身を捩った。

「迷ったんですけどね・・・これから冬でしょう」

まだ肌寒いと表現するには至らないが、それも時間の問題と思わせる秋風が過ぎ去っていく

「でも、つい、この前より長くなるのは邪魔に感じて」

そう言えばその「この前」は、目の前の彼が伸び放題の私の髪を見るに見かねて
半ば強制的に切ったのだった。

「前俺が切ったときより短いよな」

何が嬉しいのか、男はしまりなくにやついた顔で言う。

「ええ、まあ・・・」

対して私は、歯切れ悪く答える。

 

自分でもなぜ急に髪が切りたくなったのかよくわからない。

だだ それまでの長さでは物足りなくなって

 

 

どんどん短くしてしまう。

見境なく

 

 

「・・・欲張りですか、ね」

「?」

 

 

それは、一度髪を切ると 伸ばせなくなる感覚に似ていて。

 

 

色づく道の上 他の誰かと話すあなたは遠かった。

こちらに気づいて歩み寄ってきたのを見て、嬉しかったのは他ならぬ私だ。

 

一歩一歩 確実に

 

縮めた距離は

更に短く

 

『ハヤテ!』

 

もっともっと近くに、  と

 

あなたしか見えなくなる位に近くに、 と。

 

 

 

 

 

***

05/10/15

お題「近くて遠い」
短い上、ちょっと解りづらいですか?紅葉狩りがしたい今日この頃…。