真っ白な廊下を慣れた様子で、いくつかの足音が迷いなく響く。
皆大概 ここに来るときは時間が空いた時に一人でだったが、今日は偶然病院の入り口で居合わせた。
一番ここへの出没頻度が高いはずの男は、案の定廊下と同じく真っ白な部屋のパイプ椅子に腰掛けていた。
コーヒーの香りがかすかに漂う。

「なんだゲンマ、もう来てたのか」
「「おじゃましまーす」」
「おお。入れ入れ」
ゲンマは椅子越しに振り向き、カップを持っていない方の手をひらひらと振った

「ハヤテー元気だった?」
アンコがベットに駆け寄る、それに続いてライドウ、アオバも歩み寄った。

清潔なベットの上に、安らかな顔。

 

「・・・気持ちよさそうに眠むっちゃって」

「なんか隈が薄くなったんじゃないか?」
「そりゃあほれ、睡眠時間半端じゃねえから」
アオバがハヤテの閉ざされた瞼の下をつつき、ゲンマに容赦なく鉄拳を食らう。
「お前らもコーヒー飲むか?」
言いながらゲンマは立ち上がり、とっとと支度を始めた
「お。気が利くなー」
「任せろ」
にやりと笑う。
その顔が、無理矢理作った笑顔でないことに三人はほっとした。

「あ、私しるこね」
「…自分で買ってこい」

 

沸かし終え、ゲンマはテーブルの上にカップを並べた。
アンコに自販機までパシリにされたアオバは不在だ。
当のアンコ本人は茶菓子に次から次へと手を伸ばしていく。

「ライドウ」
ほれ コーヒー、と一度置いたカップの一つを手渡す。

「ああ・・・」
受け取り、口に運びながらもライドウはハヤテから視線を逸らさなかった。

「・・・きれいなもんだなあ」

呟きはまっすぐゲンマの耳に届き、彼はライドウの横に並ぶ

「だろ」
ゲンマは横たわった黒髪をやさしく梳かす。
その、手つきと同じく優しい彼の表情を横目に。
…なんとも切なくなって、ライドウは小さく息を吐いた。

「なんて面してんだよ」
友人の心情に気づいたのか、ゲンマは思わず喉で笑う

「だってよ…」

一番辛いのはお前だろ、と。
そう言おうとしたのだが、その前に彼が口を開いた。

「ライドウ、俺は明日また任務だ。里の不安定なこの時期だ、厄介な仕事もいつにも増して増えてやがる」

ライドウは黙って聞いていた。

「いつ死ぬかわからねぇ…でもよ、こいつが居る」
「こいつがこの世に居てくれるから、まだ死ぬわけにはいかねぇと思えるんだよ」

彼は笑った。普段と変わらぬ笑い方で。
眠ってても生きてることにかわりはねえよと。

その意志はライドウの深刻な表情を崩し。

「・・・のろけは聞き飽きたっての」

二人は顔を見合わせてまた破顔した。

 

「そう言えば」
思い出した、とばかりにライドウが言った。
「?」
「お前あれ試したのか?」
「ああ?あれってなんだよ」
「眠り姫にはなんとやら、だろ」
からかっているのかそれとも本気で言っているのか…何にしても。
「・・・つくづくお前ってそういう台詞似合わねえよな。」
その通りだった。

「なあ〜に、ゲンマあんたがやって駄目だったの?まああんた王子様ってガラじゃないけど!」
「むしろ娘を甘っ可愛がりして糸車を燃やす王様って感じではあるな」
しるこ缶を手にご満悦のアンコといつの間にか帰ってきていたアオバが話に割り込んできた
そしてアンコはゲンマを押しのけ

「あんたが駄目なら私がキスしちゃおうかしらね〜vvv」
と酔っぱらいのごとくハヤテに顔を近づける

「てっめアンコ!」
そのアンコの行動にゲンマは必死の剣幕でアンコをベットの傍から引きはがしにかかった

「俺のハヤテになにしやがる!」
「余裕無いわねっそんなんじゃ100年の恋も冷めるってもんよ」
「お前にされてもこいつが生気吸われるだけだってのっ」
「なんですって〜っ?」

取っ組み合いの喧嘩を始めたいい大人にそのほかの大人二人は止めることなく観戦していたが、
しばらくしてアオバが短く声をあげた

 

 

「おい・・・見ろよ。ハヤテのやつ、笑ってる」

 

 

 

***

05/9/8

お題「眠り姫」
事件後意識を取り戻さないハヤテと特上。

・・・この後ツナデ様が覚醒させるとしたらツナデ様が王子さまですね(えー!?)